大きなダメージ(2010/07/16)

 今から20年以上前、私は現在の職とは違う職業に就いていた。
高校を卒業したばかりで社会の仕組みも何もわからず、無我夢中で与えられた仕事をこなす日々であった。
実は、高校卒業時に現在就いている職業に就きたくて採用試験を受験したものの見事に落ちてしまい、直後にたまたま学校の就職担当教諭のところに採用試験の案内が来ていた地元企業を受験し、合格して就職したのであった。
地元ではかなり有名な企業ということもあって就職当初は自分なりにがんばっていたのだが、次第に自分の思い描いていた理想と現実とのギャップにとまどい、悩み、少々身体も壊してしまった。
そんな私にいろいろと声をかけてくださる先輩がいた。
私より3歳年上で、一時期は独身寮で同部屋にもなった先輩であった。
とにかく後輩の面倒見がいい方で、スケジュールが合うといつも飲みに誘っていただき、いろんな話を聞かせてもらった。
もちろん私もその先輩が大好きで、その方と飲みに行くのが楽しみになっていた。

その会社で働き出して1年ちょっと経ったある日、その先輩が私に「会社を辞める」と打ち明けてくださった。
「今の会社では自分がダメになる。自分が自分らしく素直にありたいために辞める」というようなことを言われたように記憶している。
その時ふと「おまえはこのままこの会社で埋もれていいのか?」と訊かれた。
私が高校卒業時に就きたかった職業に落ちたということをご存知だったのと、苦しんでいる私のことを普段から見ておられて、心配してそう言ってくださったのだ。
正直限界を感じていたものの、改めて転職する勇気も自信もなかった私に「落ちてもともと、今の仕事に納得できないでいるのなら、なりたかった職業にもう一度挑戦してみろ!」と言ってくださった。
そして、その話をした日からしばらくして先輩は退職されてご実家のある町へ帰られた。

心から信頼していた先輩の言葉に背中を押され、私はその年の採用試験を受験し、そしてラッキーなことに合格して現在の職に就くことができた。
合格が決まった直後にお電話で報告をしたらとても喜んでもらった。
先輩ご自身も新たな職に就いて充実していると言われていた。
その後、私が会社を辞めて転居する際にうかつにも先輩の家の電話番号を書いたメモ帳を紛失してしまい、先輩との連絡がとれなくなってしまった。

現在の職について6年経った時、先輩のご実家のある町の支店(現在の職場)に異動になった。
連絡はとれないものの、不思議な縁だなと思っていた。
こちらに異動になった2年後くらいにカミさんととあるスーパーに買い物に行った時、本当に偶然に奥様とお買い物中の先輩と再会した。
前の職場でとてもお世話になった先輩とウチのカミさんに紹介したら「俺は何もしてないよ」と照れながら笑っておられた。
偶然は重なるもので、その時に先輩とおつきあいのあるご近所の方が私の職場でいっしょに働いている方ということがわかった。
後日、その方に先輩のことをお話しして「世間はせまいねぇ」と笑った。
その後、先輩とお会いする機会はなかったのだが、私の職場の方を通してお互いのことを話してもらうなどで、私としては先輩とちょっとだけでもつながりがあるようでうれしかった。
そして、何かあったら職場の方を通じていつでも連絡が取れる(私の連絡先を伝えられる)だろうと安心しきっていた。

先輩の訃報をいただいたのは3日前の朝だった。
その日私は休みだったのだが、例の私の職場の方がメールで教えてくださった。
先輩が亡くなったという実感がいまひとつわかず、むしろ信じられない自分がいた。
先輩のご家族にはほとんど面識がないのでちょっとだけ迷ったのだが、やはりお世話になった先輩とのお別れをしたい思いが強くて、次の日、お通夜の席にお邪魔させていただいた。(翌日のご葬儀は仕事の都合でご遠慮させていただいた)
祭壇にある先輩のご遺影にまずがく然とし、ご焼香のときにおがませていただいた先輩のお顔を見て、正直めまいがしそうになった。
不思議と涙は出てこなかったのだが、一気に心拍数があがり、冷や汗が出て手足がぶるぶると震えた。
実はこれを書いている現在もあきらかに「普段の自分とは全く違うおかしな感覚」を覚えている。
「空白感」とでも言ったらいいのだろうか、とにかく大きな穴を感じるのだ。
先輩の死というできごとは、私が思っていた以上に私にとって大きなダメージがあったようである。
先も書いた通り、先輩の一言が背中を押してくれたおかげで私は今の生活を送れているのは間違いないわけで、いわば恩人とでもいう方を亡くしたのだからこのような感情を持つのも当然なのであろうか。(その割りには何も恩返しできていない自分が本当に情けないのだが)
先輩が亡くなった今、いろんなことが悔やまれるのは確かなのだが、今更それを並べても仕方がないだろう。
ただ、先輩とまた飲みに行きたかったな。

このような内容をブログに揚げるのはどうなのかと迷ったのだが、自分の気持ちを整理するために、そしてこの気持ちを記録しておきたいということでアップすることにした。
ブログを見てお気を悪くなされた方がおられたら大変申し訳ない。

ちょっと遅くなりましたが、先輩、本当にお世話になりました。ありがとうございました。
これからは周りの世話は心配なさらず、ゆっくりおやすみになってください。
最後に、ご遺族の方々には心よりお悔やみ申し上げます。
そして、大好きな先輩、小川一夫様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
本当に、本当に、ありがとうございました。

あんあん について

1967年 長崎県島原市生まれ ガンダムとMacとF1をこよなく愛するおぢさん。 タイトルの(Z)は「ゼータ」と読んでね。
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